異世界へ
普通の生活をしている方には縁もない「無低」に初入所。
おそらく会社の寮として使われていたであろう建物。
意外にも小綺麗な感じではあった。
風呂とトイレは共同で食堂もある。
肝心の部屋は6畳の和室。
室内は煙草で黄ばんでおり、畳の痛みも激しく清潔感は無し。
エアコンにテレビとカーテンは付いていた。
部屋の入り口は引き戸で開閉時はうるさい。
共同トイレの個室は和式。時代を感じさせる。
個室の1つには和便器に被せて使う洋式便器が設置されていた。
風呂は洗い場3座に大きめの浴槽。
暮らすにあたってのローカルルールは非常に厳しいもので
事細かいのが辛い。自立支援施設なので仕方ないかもしれない。
現在、数十人が暮らしている。
やはりと言うか、お年寄りの比率が高め。
ちらほら若い人もいる。
暮らすだけなら何とかなりそうな感じに思えた。
というか、現状の自分には選択肢は無い。
幸いにも部屋は完全個室。セキュリティーは無いに等しい。
【第一章】転落準備
年末も近づいてきた小雪が舞うある日、某市役所を訪れていた。
「生活保護」の申請であった。
住所不定に無職。おまけに財布には数百円の硬貨のみ。
貯金や財産なんてモノは持ち合わせていない。
完全に「詰んだ」人間である。
頼れる親類や知人もいない。
人間、落ちる時は早いなぁ~
最後のセーフティーネットに頼る時が自分にも訪れた。
今までも何回か窮地に陥った事もあったが自力で乗り切ってきたが
今回だけは何ともならなかった。
役所の窓口で生活保護の申請書類やその他書類を淡々と記入。
すんなりと書類を提出する事が出来た。
住む所も無いので、所謂「無低」を紹介してくれる事になり
担当者が来るまで待機。
「無低」とは無料低額簡易宿泊施設の事で、あまり良い印象はない。
貧困ビジネスの温床となっているのが実情。
だいぶ昔に報道で見た事がある。
でも、現状はそこに頼らざるを得ない。
覚悟を決めて入所するしかない。
無低の担当者に色々聞いてみた。
入所している方の中には刑務所から出所して住む所が無い人や
ホームレスだった人もいるらしい。